千葉県市原市・五井駅。JR のホームからとなりのホームにうつると、とたんにそこは古めかしい雰囲気を漂わせる。1両、または2両編成のそのオレンジ色の電車は、小湊鉄道線。ホームで1日乗車券を購入し、いざ小湊鉄道の旅。駅舎や車両のに古くからの雰囲気を残していて、切符を見に来る車掌さん(なぜかみんな女性だった)の手にはなんともなつかしいハサミ。ゆったりとレトロな電車に揺られつつ、途中下車しつつ、ぶらぶらと散歩。車内でたべたシャビイ(正確にはサクレのだが)はひときわおいしく感じられた。
前回の印西牧の原では「田舎は田舎だけどなんかちがう・・・」だったのだが、今日はまさに思い描いていたのどかな田舎風景がつづく。日差しは強いけれど、風もあって木陰にはいれば涼しい。電車は1時間に1本とかそんなもんで、ずいぶんと待ち時間が長い場面もあったけど、まあなんとか。久しぶりにたくさん写真を撮った。
※長文注意
要約:近所の靴屋の写真を撮った
近所に靴屋さんがある。どこにでもある・・・かといえばどうだろう、ああいう昔ながらのお店は今ではだいぶ減ってきているので、そうそうそこらへんにはないかもしれない。でもごく普通のオーダーメイドの靴屋さんだ。お店はこぢんまりとした佇まいで、下町であるその場所に古くからそこにあるのが伺える。庭先(庭なんてほどのものじゃないけど)にはすこしばかりその場所にそぐわない感じで唐突にホンダのVツインマグナが停まっている。
べつにバイクが止まっているから、というわけではないけれど、なんとなく気になる靴屋さんだった。というのも、お店は硝子戸になっていて中で職人さんが仕事をしているのが見えるのだが、すごくいい雰囲気なのだ。狭い作業場には靴をつくる大小様々な工具類が所狭しと並べられ(その様はまるでコックピットのようだ)、靴のパーツのようなものがそこらじゅうにころがっている。反対側には靴の化粧箱が積み上げられており、できあがる靴たちを待っている。手前には50代くらいとおぼしき職人さんが座って作業をしており、その奥には20代くらいの若い男性。おそらく後継者となる息子さんなのだろう。外のバイクも彼のものだろうか。
看板には「高級注文靴 小澤靴店」とある。高級ナントカという場合、大して高級でもないくせになんでもかんでも高級ってつけちゃう類のそれもあるけれど、このお店はそうではなく、本当に高級であるような気がした。小さなお店だけど、たしかにそんな風格があった。わたしはよくすり減ったヒールを直すので、このお店で頼んでみようかなとおもったりもしたが、なんとなく敷居が高く、それにわたしが持っているのはそんなにいい靴というわけでもないので気が引けていた。いちおう看板には「修理も致します」と書いてはあるんだけど。
そんな靴屋さん。わたしはもうずっと、撮りたい撮りたいと思っていた。でもどうしても勇気が出なくてできなかった。靴の修理に通って仲良くなって撮らせてもらえば・・・とか考えたりもしたものの、この手のオーダーメイドの靴屋さんで修理ばかり頼んでくる客なんて喜ばれないんじゃないかとか、でも靴をオーダーメイドするほどお金持ちじゃないし(何しろ「高級」注文靴 である)とか、そんなことを考えてはなかなか実行に移せなかった。そんな小細工をするよりも、もう直球勝負で「写真を撮らせていただけますか?」と言うしかないし、そのほうが手っ取り早い。でもなあ・・・いきなり入ってきて「写真撮らせろ」ってどう考えてもおかしいよなあ。でも言うしかないんだよなぁ。ああああ。
いちど、F3 をぶら下げてお店の前まで行ってみた。「素直に撮りたい気持ちを伝えれば大丈夫」という友の言葉を胸に、今日は、今日こそは必ず撮らせてもらうんだ、と心に決めて。F3 を手に握る。カメラの冷たい感触が、手の中でずしりと重い。お店の硝子戸の前に立つ。だけど、やはり勇気が出ない。しばらくお店の前でモジモジしていると、近所のおじさんらしき人が硝子戸を開けてお店の中の人にあいさつをし、そしてすぐに帰っていった。わたしは結局15分ほどお店の前をウロウロして(完全に不審者)、でもどうしてももう一歩踏み出せず、結局諦めて家に帰った。
そんなことを何度か繰り返した後の先月のある日、それはちょうど友人たちと江ノ島に遊びにいく日だった。バッグの中には F3 が入っている。予定の時間よりも少し早めに家を出て、いつものように小澤靴店の前を通る。その日は祝日だから、きっとお休みだろうとおもっていたのだが、思いの外、硝子戸にかけられたカーテンは開いていた。だけど作業場の中には誰もおらず、しんと静まり返っている。朝の光が辺りを濡らして美しい。硝子越しにカメラを構え、ファインダを覗いてみる。とてもいい雰囲気なのだが、硝子の映り込みが邪魔だし、すこし遠い。1枚だけシャッターを切ってカメラを下ろし、ため息をついて駅に向かう。しかし10数メートルほど歩いて、どうしてもあの光の中の様子が諦めきれず、踵を返す。そしてまた硝子戸を覗いてみると、そこには店主のおじさんがいた。
バッチリ目があってしまったので逃げるのも怪しい。覚悟を決めると、おじさんが硝子戸を開けてくれた。おそらくお客さんだと思ったのだろう。からからという乾いた音が響く。そしておじさんが何か言うが早いか、頭の中で何度も反復した台詞がわたしの口を衝いて出た。
「あの、このお仕事場の風景の、写真を撮らせてもらってもいいですか?」
言えた。わりと爽やかに。考えていた文句とはちょっと違うけど。とにかく言えた。やった。イメージトレーニングの効果を思い知った。おじさんは「写真撮って歩いてるの?」と言う。「はい・・・あ、でもわたし近所なんですけどね。すぐそこなんです」と答えると、「そうかい、いいよ、入りな、今日は休みだから」と中に入れてくれた。何度となく硝子越しに眺めていた作業場。ああ、なんて素敵なんだろう。職人のコックピット。必死で露出とピントを合わせる。焦ってしまって、ピントが合っているのかイマイチよくわからない。とにかく必死なのである。デジタルで保険をするのも忘れて夢中でシャッターを切る。調子に乗って「あ、あの、ちょっとそこ座ってもらっていいですか?」なんてお願いしたりすると「雑誌の取材みたいだねぇ」といって快く引き受けてくれた。
実際よく雑誌の取材とかが来るらしく、ひとしきり撮り終えた後、過去に掲載された記事を見せてくれたり、靴をどうやって作るのかとか、いろいろ話してくれた。聞けば昔、とある海外ブランドの靴は西洋人に合うように作られていて、幅広で甲が高く扁平足の多い日本人には合わなかったのだそうだ。それでそのブランドののエラい(?)人が、「日本人に合う靴を作りたい」というので、通訳を連れて小澤さんのところにやってきたんだそうだ。で、今はその海外ブランドの靴は日本人にも合うようになったんだとか。なんだかその筋では有名らしい。調べてみて驚いた。あの靴屋さんは、乗馬ブーツなど皇室関係の靴を一括して納めている皇室御用達のお店なんだそうだ。そんなことお店のどこにも謳っていないし、おじさんもそんなこと言っていなかった。きっとその仕事に確かな自信があり、だからこそ皇室をはじめ多くの人の厚い信頼を得ているんだろう。今はどんどん機械化されていっているけど、手作りでなければ出せない品質があるのだ。やっぱり職人ってすごいな。
もうちょっと話をしたかったけど、ロマンスカーの時間もあるので遅刻はできない。後ろ髪を引かれる思いで小澤靴店を後にしたが、その足取りはほとんどスキップ状態であった。いやったぁぁあああ! と、声に出していたかもしれない。ついつい顔がほころぶ。失敗しててももうかまわない。とにかく撮った。それで満足だった。
このお店は馬術をする人にはわりと有名らしく、バイク用のブーツはどうだろうとおもったんだけど、バイク用ってのはプロテクタが入っていたりとやはりすこし違うもんなので、それ用ってのは作っていないそうだ。でも、ハーレーに乗る人たちなんかはこのお店にオーダーする人が多いんだとか。なんだかすごくわかる気がする。いつかわたしも、小澤靴店で靴を作ってもらいたい。
要約:近所の靴屋の写真を撮った
近所に靴屋さんがある。どこにでもある・・・かといえばどうだろう、ああいう昔ながらのお店は今ではだいぶ減ってきているので、そうそうそこらへんにはないかもしれない。でもごく普通のオーダーメイドの靴屋さんだ。お店はこぢんまりとした佇まいで、下町であるその場所に古くからそこにあるのが伺える。庭先(庭なんてほどのものじゃないけど)にはすこしばかりその場所にそぐわない感じで唐突にホンダのVツインマグナが停まっている。べつにバイクが止まっているから、というわけではないけれど、なんとなく気になる靴屋さんだった。というのも、お店は硝子戸になっていて中で職人さんが仕事をしているのが見えるのだが、すごくいい雰囲気なのだ。狭い作業場には靴をつくる大小様々な工具類が所狭しと並べられ(その様はまるでコックピットのようだ)、靴のパーツのようなものがそこらじゅうにころがっている。反対側には靴の化粧箱が積み上げられており、できあがる靴たちを待っている。手前には50代くらいとおぼしき職人さんが座って作業をしており、その奥には20代くらいの若い男性。おそらく後継者となる息子さんなのだろう。外のバイクも彼のものだろうか。
看板には「高級注文靴 小澤靴店」とある。高級ナントカという場合、大して高級でもないくせになんでもかんでも高級ってつけちゃう類のそれもあるけれど、このお店はそうではなく、本当に高級であるような気がした。小さなお店だけど、たしかにそんな風格があった。わたしはよくすり減ったヒールを直すので、このお店で頼んでみようかなとおもったりもしたが、なんとなく敷居が高く、それにわたしが持っているのはそんなにいい靴というわけでもないので気が引けていた。いちおう看板には「修理も致します」と書いてはあるんだけど。
そんな靴屋さん。わたしはもうずっと、撮りたい撮りたいと思っていた。でもどうしても勇気が出なくてできなかった。靴の修理に通って仲良くなって撮らせてもらえば・・・とか考えたりもしたものの、この手のオーダーメイドの靴屋さんで修理ばかり頼んでくる客なんて喜ばれないんじゃないかとか、でも靴をオーダーメイドするほどお金持ちじゃないし(何しろ「高級」注文靴 である)とか、そんなことを考えてはなかなか実行に移せなかった。そんな小細工をするよりも、もう直球勝負で「写真を撮らせていただけますか?」と言うしかないし、そのほうが手っ取り早い。でもなあ・・・いきなり入ってきて「写真撮らせろ」ってどう考えてもおかしいよなあ。でも言うしかないんだよなぁ。ああああ。
いちど、F3 をぶら下げてお店の前まで行ってみた。「素直に撮りたい気持ちを伝えれば大丈夫」という友の言葉を胸に、今日は、今日こそは必ず撮らせてもらうんだ、と心に決めて。F3 を手に握る。カメラの冷たい感触が、手の中でずしりと重い。お店の硝子戸の前に立つ。だけど、やはり勇気が出ない。しばらくお店の前でモジモジしていると、近所のおじさんらしき人が硝子戸を開けてお店の中の人にあいさつをし、そしてすぐに帰っていった。わたしは結局15分ほどお店の前をウロウロして(完全に不審者)、でもどうしてももう一歩踏み出せず、結局諦めて家に帰った。
そんなことを何度か繰り返した後の先月のある日、それはちょうど友人たちと江ノ島に遊びにいく日だった。バッグの中には F3 が入っている。予定の時間よりも少し早めに家を出て、いつものように小澤靴店の前を通る。その日は祝日だから、きっとお休みだろうとおもっていたのだが、思いの外、硝子戸にかけられたカーテンは開いていた。だけど作業場の中には誰もおらず、しんと静まり返っている。朝の光が辺りを濡らして美しい。硝子越しにカメラを構え、ファインダを覗いてみる。とてもいい雰囲気なのだが、硝子の映り込みが邪魔だし、すこし遠い。1枚だけシャッターを切ってカメラを下ろし、ため息をついて駅に向かう。しかし10数メートルほど歩いて、どうしてもあの光の中の様子が諦めきれず、踵を返す。そしてまた硝子戸を覗いてみると、そこには店主のおじさんがいた。
バッチリ目があってしまったので逃げるのも怪しい。覚悟を決めると、おじさんが硝子戸を開けてくれた。おそらくお客さんだと思ったのだろう。からからという乾いた音が響く。そしておじさんが何か言うが早いか、頭の中で何度も反復した台詞がわたしの口を衝いて出た。
「あの、このお仕事場の風景の、写真を撮らせてもらってもいいですか?」
言えた。わりと爽やかに。考えていた文句とはちょっと違うけど。とにかく言えた。やった。イメージトレーニングの効果を思い知った。おじさんは「写真撮って歩いてるの?」と言う。「はい・・・あ、でもわたし近所なんですけどね。すぐそこなんです」と答えると、「そうかい、いいよ、入りな、今日は休みだから」と中に入れてくれた。何度となく硝子越しに眺めていた作業場。ああ、なんて素敵なんだろう。職人のコックピット。必死で露出とピントを合わせる。焦ってしまって、ピントが合っているのかイマイチよくわからない。とにかく必死なのである。デジタルで保険をするのも忘れて夢中でシャッターを切る。調子に乗って「あ、あの、ちょっとそこ座ってもらっていいですか?」なんてお願いしたりすると「雑誌の取材みたいだねぇ」といって快く引き受けてくれた。
実際よく雑誌の取材とかが来るらしく、ひとしきり撮り終えた後、過去に掲載された記事を見せてくれたり、靴をどうやって作るのかとか、いろいろ話してくれた。聞けば昔、とある海外ブランドの靴は西洋人に合うように作られていて、幅広で甲が高く扁平足の多い日本人には合わなかったのだそうだ。それでそのブランドののエラい(?)人が、「日本人に合う靴を作りたい」というので、通訳を連れて小澤さんのところにやってきたんだそうだ。で、今はその海外ブランドの靴は日本人にも合うようになったんだとか。なんだかその筋では有名らしい。調べてみて驚いた。あの靴屋さんは、乗馬ブーツなど皇室関係の靴を一括して納めている皇室御用達のお店なんだそうだ。そんなことお店のどこにも謳っていないし、おじさんもそんなこと言っていなかった。きっとその仕事に確かな自信があり、だからこそ皇室をはじめ多くの人の厚い信頼を得ているんだろう。今はどんどん機械化されていっているけど、手作りでなければ出せない品質があるのだ。やっぱり職人ってすごいな。
もうちょっと話をしたかったけど、ロマンスカーの時間もあるので遅刻はできない。後ろ髪を引かれる思いで小澤靴店を後にしたが、その足取りはほとんどスキップ状態であった。いやったぁぁあああ! と、声に出していたかもしれない。ついつい顔がほころぶ。失敗しててももうかまわない。とにかく撮った。それで満足だった。
このお店は馬術をする人にはわりと有名らしく、バイク用のブーツはどうだろうとおもったんだけど、バイク用ってのはプロテクタが入っていたりとやはりすこし違うもんなので、それ用ってのは作っていないそうだ。でも、ハーレーに乗る人たちなんかはこのお店にオーダーする人が多いんだとか。なんだかすごくわかる気がする。いつかわたしも、小澤靴店で靴を作ってもらいたい。
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